野良研究者の雑記帳

経営学と材料加工が専門の企業研究者ナニガシがつづる日常の記録

【MOTのプチ研究紹介】初めてのデータ分析 ”カープ女子の経済学”

 

こんにちは、Nekoaceです。

 

2023年もよろしくお願いします。

本ブログの全容が知りたい方はまずこちら↓。

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これまで、技術者として社会人として働き始め、社会人博士課程に進んで技術の道を極めようとしてきました。

その過程で、ビジネスの知見を深めることも必要と考えMOT進学もしましたが、この時、自分の中で大きなカルチャーギャップがありました。技術経営、広く経営学の分野の学術研究は、理系研究とは毛色が違うのです。理系研究は実験や数値計算に基づいて自然現象を理解することを目的にしていきますが、経営学は研究対象が市場だったり時には人間心理だったり、理解するのが一筋縄ではいかない分野を扱うので、研究の手法も大分異なってくるのです。

そこで、そんな一見とっつきづらい経営学の学術研究に関して、NekoaceがMOT在籍時代に行っていた研究の内容を紹介していこうと思います。Nekoaceが所属していた大学院では、講義のほかにグループ討議/簡易研究する授業がありました。教員が経営学に関する論文を紹介し、その後学生が数人のチームを作って、論文で使われる研究手法を身の回りの事例に適用するのです。Nekoaceもこの授業でMOTの研究方法について学びました。

 

ちなみに、大学で学習した内容を自分の独自研究した部分とはいえWeb公開する形になっています。もし当時の所属大学から指摘された場合には公開中止しますので、いつの間にかこの記事が消えていたらそういうことだと察してください。。。

(とはいえ、、、本記事は社会人の大学院進学を応援するものでありますので、大学にとっても利があると思いますよ!

 

それでは始めていきましょう。

 

 

 

題材になった経営学の論文

教員から紹介された論文は「ビジネスエコシステム」と呼ばれる分野のものでした。

研究対象はLEGOです。ご存じの方もいるかもしれませんが、LEGOは2000年代前半に経営が厳しかった時期があったんです。そこからマッキンゼー出身の方に経営者が変わって、大復活を遂げました。

彼が着目したのは、ユーザーと連携して顧客価値を作ること。事例はマインドストームという製品に起きたことですが、学生がLEGOのプログラミングシステムにハッキングしてLEGOが考えもしなかったマシンを作り出したんです。LEGOは当初訴訟するつもりだったようですが、結果的にはこれを認めて、ユーザーコミュニティをむしろ支援する仕組みを作り上げていきました。その語はご存じレゴムービーはじめ当初のブロックから事業進出の幅を広げ、業容拡大していきました。

 

簡易研究のテーマ決定まで

ここから、Nekoaceの簡易研究です。授業の性質上、上記LEGO論文と同様に、会社含めて複数のステークホルダー(この場合、LEGOとファンコミュニティ)が連携して成長しあう事例を探す必要がありました。

また同時にチーム作業だと上で書きましたが、チームでスポーツを題材にしようと決めてました。

そこで、色々考えた結果行き着いたのがカープ女子でした。カープ女子と言うと、2014年に流行語大賞ノミネートもされて市民権を得たように思いますが、それ以後カープそれ自体の成績も上向いているのです。

以下が、日本野球機構のホームページから取得できるセリーグ6球団の観客動員数の推移です。セリーグの場合、読売が常時動員数1位なので、読売を1として他球団を規格化しています。すると、20世紀中は読売一強時代が続いていますが、2000年代に入ってから阪神と二強となっていきます。そこから最近2010年代以降は二強以外の球団が軒並み動員数を増やしています。広島カープはどうかというと、2000年前では6球団中最下位なのですが、2017年には二強に次ぐ3番手に上がってきていることが分かります。

 

 

 

さてそれでは次に、カープ女子という言葉の注目度を見ていきましょう。

この調査にはGoogle Trendを使いました。Google Trendは誰でも使える検索回数を調査するためのツールで誰でも簡単に使えます。

これで、「カープ女子」と検索すると、時系列のGoogleでの検索回数が出てくるのですが、検索され始めたのが2013年でそこから継続して検索されていることが分かります。

 

 

簡易研究の分析

ここまでは既存のツールを使った「調査」です。

研究としての体をなすには、ある仮説に基づいて何らかの手法で仮説検証していく必要があります。上記の観客動員数とカープ女子という言葉が注目されて行っていることを合わせてこんな仮説を立てました。

カープ女子に代表される、従来野球観戦とは縁遠いSNS発信に強い顧客の需要を取り込むことで広島カープの認知が高まり観客動員数が増加したのではないか」

ということです。

実際、ニュースを見てるだけでもカープ女子という言葉を見る機会が増えて、メディア露出を増やすことはマーケティングの基本でもありますから、これが呼び水となっている可能性は十分に考えられます。

 

さて、分析です。

まずは、セリーグ各球団の球団名での検索回数をやはりGoogle Trendで調査しました。すると以下のようになりました。検索回数はその年のチームの強さとも関係しますのでその年の優勝球団も合わせて載せています。

広島カープのメインスタジアム「マツダスタジアム」が完成した2009年とカープ女子が流行語に入った2014年をまたいで、カープの検索回数は急増し、2016年からは広島カープの三連覇時代に入りました。

かつての弱小球団のイメージから脱却した瞬間ですね。この時期のことはNekoaceも良く覚えています。

 

 

それでは次に、検索回数と観客動員数(図中では入場者数)で相関を取っていきます。すると、広島カープ横浜ベイスターズのみ明確に相関があることが分かりました(R2>0.7)。

このことは何を意味するのでしょうか。

広島カープの場合、もともと動員も少なくチーム成績も悪い弱小球団でした。当然検索回数も少なくWebマーケティング上はとても不利でした。それが、2010年ごろから検索回数が増加し、チーム順位が上がり、カープ女子というアイコンができ、動員数が増えついには3連覇を果たすまでになりました。

この急成長にはLEGOと似たものを感じませんか?

広島カープというチームがあって、ファンコミュニティがあります。これはLEGOと同じくチームとファンがともに成長する姿が浮かびませんか。

 

 

これはあくまで簡易研究であり、上記仮説を立証するためには課題も多くあります。

・観客動員の増加の要因の中でカープ女子が占める割合はどの程度か。

・検索回数の増加の中でカープ女子が果たす役割はどの程度か。

・広島カープ横浜ベイスターズとの共通点は何か?

こうした点をもっと詰めていけば、この内容も経営学(というかWebマーケ?)の分野での学術研究として成立するのではないかと思います。

 

簡易研究で得たもの

さて、以上がMOTで学んだ内容の一端の紹介となります。

Nekoaceはもともと実験物理屋さんでして数理的なシミュレーションは多少経験がありましたが、Google Trendに代表されるWebマーケの経験はありませんでした。また恥ずかしながらエクセルになりますが相関係数R2を自分できちんと出したこともこの時が初めてでした。

それまでどこか遠い世界に感じていた統計学の一端をこの時経験することができたことが自分の中での学びとして大きく、それからことあるごとに会社の仕事の中で相関係数の算定を行っていて、自分の仕事の幅が広がりました

 

MOT経営学です。経営学というものは本当に分野の幅が広く、したがって課程在学中にも、本当に思いもよらない学びがあります。

おそらく、今どんな仕事をされている方でも、主体的に学べば得るものがある分野だと思います。

よろしければその門を叩いてみてください。

 

それではまた

nekoace