野良研究者の雑記帳

経営学と材料加工が専門の企業研究者ナニガシがつづる日常の記録

【キャリア論】その共同研究は誰のためか②:大団円を目指して汗をかくのは

こんにちは、nekoaceです。

前回産学共同研究に関する書籍の紹介をしました。

今回は、自分がこれまでに行ってきた共同研究の事例を紹介しながら、関係者全員がハッピーになる共同研究の形をどのようにすれば作れるかについて思うところを書いていきます。

 

 

 

おさらい

前回、「搾取される研究者たち」という本の紹介記事を書きました。

 

nekoace.hatenablog.com

 

本はこちら↓

 

管理人はこれまで電機メーカーおよび素材メーカーにて研究機関との共同研究を行った経験があります。まずは、その時に考えていたことをまとめていきます。

 

経験談1:某国立研究所との共同研究

数年前になりますか、関東地方某所にある国立研究所と一年間だけ共同研究を行いました。

当時、私が所属していた企業で、全く新しいコンセプトの加工装置の開発が始まっていました。ところが、使っている技術が先端的すぎて、論文レベルですら世の中にほとんど出回っていなく、なぜこの装置で狙いの加工ができるのかそのメカニズムがわからない、という状況でした。

そこで、日本中の研究者を、学会や論文検索のデータベースを使いリサーチし、おそらくその分野で知見が国内ではトップレベルであり、かつ私自身が以前からつながりのある先生がいらっしゃったので、その方と共同研究契約を結んだのです。

この時、私が所属する企業から支払った金額は数百万円の下の方で、先生からすると格安だったと思います。国立の研究所だと企業側に供与するもともと持っている知見と、新たに実験などの研究行為を要するのであればその実験工数、さらには実験資材の購入費を含めて、数百万円から時には1千万以上の金額が一年間で必要です。さらに先生とは開発している製品開発がうまくいった場合には、製品紹介の欄に先生の名前を入れる可能性について言及しました。「〇〇先生推薦」みたいなあれです。

とはいえ、色々な先生と個人的にお話しする中で、アカデミア(大学や、今回のような研究所)の先生の側も自分がやりたい仕事というものがあるようです。それは研究者個人として興味がある研究内容であったりとか、実用化の可能性が高そうなイケてる研究、さらには依頼してくる企業研究者がこれからも一緒に付き合っていきたい方であるかどうか、であるとのことです。

私がこの国立研究所の先生と格安で共同研究できたのは、これらの条件を満たしていたからではないかと思います。

研究内容は、先生の注力する分野と一致していました。そして、私自身もかなり努力して企業で行うプロジェクトの将来性を謳っていたしなにより私自身がこのプロジェクトの将来性を信じていた。さらに、私自身を信用していただくために何でもしました。

先生のスケジュールはSNSはじめ様々なところで調査し、ちょくちょく顔を出すようにしました。自分が学会や論文で発表するときには、先生の研究を引用するようにしました。そして、開発していた装置が実用化されたときには、日本の製造業をどのように変えていくことができるか(国立研究所の研究者は日本のために、という意識が強いのでこの視点はすごく響きます)強く夢を語りました。

 

まとめるとこんな感じ↓です。


後日談ですが、このときの共同研究自体はうまくいったのですが、諸事情により企業内での開発がうまくいかなく開発中止となってしまいました。

しかし、このときの開発成果を英語論文として世の中に出し、先生と連名で論文を出版しました。開発自体はうまくいかなかったものの、先生との個人的な関係はいまだに良好で、また次に機会を伺っています(事業化諦めません!)。

 

 

経験談2:某国立大学との共同研究

研究の概要

次は、私が進学していた国立大学との共同研究です。これまで何度か書いてますが、私は社会人博士として、某大学に3年間在籍していました。

 

nekoace.hatenablog.com

 

この時私は企業人でしたので、会社のルールに沿い社会人博士課程に進学したわけですが、博士とその準備期間含めて都合5年間ほど共同研究を行っていました。企業として、大学に社員を送り込むというものはなかなか面倒ごとが多く、共同研究という形で、企業と研究室で契約を結び、その中の研究員として社員を在籍、さらに博士進学させる、というやり方が私の会社では一般的だったからです。

 

さて、この時も共同研究ですので、研究のシナリオを立てなければいけません。そして私は材料加工の分野で博士を取ることが決まっていました。なので、私の研究分野で、大学も会社も納得する研究計画を立てなければいけないわけです。

これが結構大変だったのですが、結局のところ、一年ごとの契約にして、毎年研究内容は変えていました。会社側の事業計画がころころ変わるし、下手したら組織も変わるので、5年かけてじっくりする研究というものが認められる雰囲気になかったからです。

大きくは、狙いの材料加工分野ですがその応用製品は、加工機の開発だったり加工機で作る製品だったり部材だったりしました。ですが、常に一貫していたのは物理現象、メカニズムを解明するということを研究の大目的に据え続けていた点です。

 

研究体制

研究の体制としては、大学の指導教員(教授です)の下に博士学生としての私がついて、その下に学生がつく、という構図。そして、私は企業側の代表者を兼務して、共同研究成果は定期的に会社の上司に報告する構図です。

ここでも、大学側の仕事(研究と学生の管理)と企業の仕事(通常業務と共同研究)をダブルワークで行っていました。

 


大学は、研究所と比べると研究費は比較的低額です。100万円/年程度から受け入れは可能ですし、数十万円/年程度で大学教員が企業に指導する契約の形態もあります。この時は共同研究ですのでそこそこの金額でしたが、国立研究所に依頼するよりは安価でした。

 

ステークホルダーごとのメリ/デメ

この時に注意していたのは、ステークホルダーが多いので全員が満足するシナリオを描き、その実現のために汗を流し続けることです。

まず、企業にとっては、ある加工技術の専門家として博士の育成をしたいわけですから、企業側が立てた目標達成は必須です。それは学会発表や論文発表の件数もしくは、特許取得だったりします。それと、共同研究先の学生をリクルートしやすいというのも魅力的だったりするみたいですね。僕の周囲でもそういう理由で入社する方が何人かいます。このケースは、リクルートのパスとしてはいいですね。ミスマッチが少ないので。

上司にとってみても、自部署の方針で博士に進学させるわけですから、相応の研究成果を出してしかるべきですし、共同研究で立てた目標も完遂する必要があります。

大学にとってみると、社会人博士が大学にいてくれるということはそれだけで貴重なようでした。社会人はきちっと納期を守るので(守る学生さんもたくさんいますが・・・)重宝されます。

学生にとってみると、身近に社会人がいるというのはメーカー志望の学生にとってみるとよいことのようですね。自分が働いているときのイメージがつくので。昨今インターンシップも流行っていますが、これに近い経験ができるんじゃないかと思います。

 

さて、このあたりまとめます。↓

 

心掛けていたのは

さて、それでは、こうした場合に、私が心掛けていたことです。

会社のお金で共同研究させてもらって、博士にも進学させてもらうわけです。これは会社に感謝しなければいけませんし、私が失敗すると、後輩が同じく博士進学を考えたときに迷惑をかけるかもしれません。なので、なんとかすべてのステークホルダー(企業、大学、学生)がハッピーになる形で研究を進めたかったのです。なので、上の図にある各ステークホルダーデメリットを意識して解決しようと努めました。

まず、企業に対しては、情報漏洩のリスクを避けるために、外部公開する項目は研究開始時点で候補を挙げて、発表していいところとダメなところをまとめました。具体的には、共同研究で行う内容はあくまで装置の動作原理に関することとしました。実際の製品に関する研究とすると、共同で特許出願する必要が出て権利関係が複雑になります。対して、あくまでメカニズムの研究とすると、世の中に数多ある先行研究に立脚して研究する立場を貫けるので情報漏洩の管理が楽です(権利関係で揉めるのは全員が嫌がります)。このあたりは、特許収入を重視する先生もいるので、お互いWinWinになるようにうまくやらないといけません。

大学に対しては、できるだけ成果を研究として外部公開することを心掛けました(指導教員の業績につながるように)。これ、共同研究時、博士在籍時と、研究修了時にも行いました。

学生に対しては、時に無茶な要求もしましたが、基本的には、最初に立てたスケジュールに従って動いて、スケジュールを守れないときには学生を叱咤することもして(常識の範囲内です・・・)なんとか研究全体の進捗を保てるように努力しました。しっかりとした開発計画とそれに向けたプロジェクトマネジメントしている姿を見せることで学生の信頼を得るのです。

 

まとめ

そんなこんなで、無事共同研究も終了でき、博士卒業もできたわけですが。

やはり共同研究というものは多様な人がかかわる仕事ですから全員がハッピーな大団円を迎えるためには、主となる担当者の誠実な努力が必要です。それぞれの研究参加者が求めているものを考え、聞き、すり合わせながら仕事を進める。

これやると結構大変なので、大体みんな痩せますね(笑)。

 

でも、仕事ってそういうもんだと思うんですよね。

 

正直、企業でも研究所で研究していると、関わる人が固定化してきます。顧客の顔が見えるわけでもなく、同じメンバーで同じことを議論することになりがちです。

でも本当は仕事っていろんな人の間を取り持ちながらみんながハッピーになれる未来に向かって働きかけていくもので、その対価がお金でしょう。

私は共同研究という形でしたが、いろんな人の思惑をまとめながらする仕事のスキルはこの経験から学びました。

 

さて今回は、産学共同研究を円滑に進めるためのコツについて書きました。企業と大学という複数のステークホルダーがかかわるプロジェクトを成功させるためには、その推進者の圧倒的な努力が欠かせません。そして、そういった仕事が成功するということは多方面に貢献するということであり、仕事のやりがいという面で大きなものがあります。

 

それでは、次回またお会いしましょう。

 

nekoace