野良研究者の雑記帳

経営学と材料加工が専門の企業研究者ナニガシがつづる日常の記録

【キャリア論】産学連携のジレンマ(問題編):共同出願には要注意!

 

 

こんにちは、nekoaceです。

何度か産学連携(いわゆる共同研究)の話題で記事を書きました。自分が書いた記事を改めて見返していて、新たにで書きたいことが出てきたのでまとめておきます。

産学連携に限らず仕事においては、作業を始める前に成果物(アウトプット)を決めておくことはとても重要なことです。例えば設計職であれば○月末までに仕様書と図面何枚提出!だったり、営業部門であれば受注何万円!とかですね。

産学連携においてもこのように具体的なアウトプットを事前に定義しておくことはとても重要なのですが、企業と大学という異なる業態が交わる産学連携では、アウトプットをきっちり定義しておけばおくほど失敗確率が高まると考えています。

今日はその辺りを書いていきます。

 

 

 

 

 

はじめに

これまで、企業とアカデミアにおける共同研究の実態、

nekoace.hatenablog.com

 

共同研究を成功させるためには主担当者の圧倒的な努力が必要であること、

nekoace.hatenablog.com

 

企業とアカデミアを跨いだ経験を持つ越境人材の存在が成功確率を高めること、

nekoace.hatenablog.com

 

について書いてきました。

これらは主に、共同研究の成功に向けた人材要件が主題なのですが、実際に研究を運営していく上で目標設定というものも極めて重要です。

 

ありがちな共同研究の目標設定

前の記事で、企業側、アカデミア側それぞれ全てのステークホルダーにとってメリットになるような研究運営をすべきだと書きました。

 

その中で、それぞれの研究における研究の目的(すなわちメリット)を言葉で表したものとして共同研究目標があります。

共同研究目標は、みんなで一つの目標を決めて、その中でこの分野は企業さん、この分野は大学さん、それぞれいついつの期日でこれを達成して、全体としては〇月にこれを達成しましょう!という感じです。この目標は具体的に数字で示した方がよいと言われるので、何々が〇%の精度で検証できていること、とか、何々を何件提出すること、とかで定義される場合が多いです。

後重要なのは、製品化に向けて必要な要件を満たすことを確認すること、例えば、研究シーズを製品化する上で重要なQuality(品質)やCost(コスト)を算定するための実験検証を行うことなどもよくあります。

 

共同研究は、ざっくりといえば大学側の研究シーズを企業が吸収し製品に落とし込むことが究極目標であると思います。実際には、製品化までは道のりが長いことも多いですが究極的にはこれで概ね正しいはずです。

 

共同出願/共同発表には要注意!

ここで重要なのは、企業と大学で共同で発表する際にトラブルが最も多いだろうと言うことです。

例えば特許の共同出願です。先日紹介した書籍紹介にも書きましたが、いかに重要な特許であろうが(というか重要であればあるほど)有効に活用するためには、出願後、長期に渡り企業と大学が連携し続けてことに当たる必要があります。その特許が結局日の目を見ず誰からも忘れられていくようなものであればよいのですが(いや良くはないけど・・・)、もし、ビジネスにつながるような有望な特許であった場合、企業と大学いずれも目の色が変わり自分の権利を最大化しようするはずです。

こうした利権が絡んだやりとりは、本来は出願時に交わしている共同出願の契約に記載された事項を元に議論すべきですが、そのためには、企業と大学が出願後も長期に渡り良好な関係を築いていなければいけません。ところが、教授の退任、主担当者の交代、組織の方針変更のタイミングで大抵こういう研究は見直しが入り、たとえば5年以上のスパンで連携を続けているということは難しいという現実があります。これが、特にディープテックの分野で産学連携が難しい原因なのです。

(その点、大学発ベンチャーは起業家が特定の技術に長期間、時には10年以上コミットし続けるわけですから、資金面の不安はあるにせよ技術の実装という観点では安心感があります。だからこそ、数は多くないですが成功するベンチャー企業も出てきています。)

 

論文の共同発表についても同様です。これは、主に大学側が主となって発表しようとするはずですが、多くの企業では外部発表する際に社内手続きなどで時間がかかります。私の経験は別で書きましたが、企業内での推敲だけで数十回、期間にして数カ月かかります。

 

nekoace.hatenablog.com

 

これが共同の出願になると、さらに双方の調整に時間がかかります。もし、大学側で、共同研究の内容を学生の卒業論文(修士、博士も含む)に組み込んでいると、学生の卒業納期に社内の発表手続きが間に合わない、という悲劇すら起こりえます。

 

産学連携のジレンマ

それではこうした共同発表を研究目標から外すべきなのでしょうか。

企業と大学での共同の論文発表や共同出願は、目に見えるとてもわかり易い成果です。企業にしてもアカデミアにしても連携先の〇〇と連名で発表した、といえば組織内で一目置かれるかもしれません。

しかし、共同発表を実現するにはその裏で関係者の多大な労力が必要です。さらに、双方の主研究者の他の権利関係の部署(法務部や知財部)との調整、そして、双方の権利部署間でのやりとりが必要です。

私の経験上ですが、この権利部署間でのやりとりがすごく大変です。取り分が何%、のような話ならまだいいのですが、契約書がこの文言だとどうか、どちらの契約フォーマットを使うか、研究終了後のデータの取り扱いがどうだ、とか。ときには、以前この組織とは揉めたからもう少し厳し目の文言にしておく、みたいなウェットな話もあってなかなか前に進まない、ということが頻発します。

 

共同発表という高い成果をあげようとすると、組織の考え方の違いに依存するしがらみでむしろ圧倒的に研究運営が大変になって、ときにはそのまま研究中止に追い込まれることすらあるのです。

 

複数の組織をまたぐこのような外部発表を実現し、共同研究を成功裏に結び付けるためには、成果定義の仕方にコツが必要だと考えています。

ざっくりとは、目標設定はラフな、達成しやすいものにしておいて、成果の出し方に広めのグレーゾーンを残しておいて分かり合った担当者同士で細かいことはよろしくやる、ことが理想の姿だと思います。このあたりは、次回書きます。

 

今日はひとまずこのへんで。

 

nekoace