野良研究者の雑記帳

経営学と材料加工が専門の企業研究者ナニガシがつづる日常の記録

【キャリア論】その共同研究は誰のためか①

こんにちは、nekoaceです。

今回は、企業にせよ大学にせよ、主に理工系の方にとって一度は耳にしたことのあるであろう企業と大学の連携「共同研究」について書いていきます。

管理人はこれまで企業研究者として、いくつかの研究機関と産学共同研究を行ってきました。産学共同研究とは、企業が資金提供し、大学が先端的な研究を行い、双方連携して新たな技術を世の中に提供していく行為を指します(理想的には、ね)

学生の方にとっては社会人と密に連携を取り働き方など多くを学ぶことのできるチャンスです。インターンの密度を高めた感じじゃないかと思います。

企業にとっては大学の先端的な知見を企業内に取り込むチャンスです。

共同研究というものは、双方に多くのメリットをもたらすものですが、どうもうまくいかないケースが散見されます。

 

今日はそのあたりを書いていきます。

 

 

 

はじめに

なぜ、今回共同研究を取り上げるかというと、最近こんな本を読んだからです。

 

 

この本は、人に勧められて読み始めたのですが、自分の仕事と照らし合わせてみるといろいろと符合するところが多くためになりました。著者は、企業法専門の弁護士として多数の研究者の係争を経てこんなコメントを残しています。

 

”現状では、大学教員にも、特に院生などの若手研究者にも、企業にも、メリットがある公平な共同研究は難しいのではないか”

 

本来共同研究とは異なる分野の専門家の知見を合わせて単独ではなしえない価値を生み出していくプロセスのはずです(理想的には、ね)

ところが著者は大学と企業がWinWInな形は作れないと言っている。

そして、管理人自身も、ほとんどの場合そうかもしれないと思っている(苦笑)。

 

 

共同研究って、なんぞ?

さて、それでは、共同研究の定義から。

 

グーグル先生によると

”「共同研究」とは民間から研究者と研究経費を受入れ、大学の研究者と産業界の研究者とが共通の研究課題について対等の立場で共同して研究を行うもの。”

weblioより

だそうです。うん、これはイメージ通り。

 

そしてこの研究は、通常、企業側の担当者が大学の担当教員と共同で当たる場合がほとんどと思います。これも想像は容易でしょう。

 

共同研究契約って、なんぞ?

そして、共同研究は契約なので、共同研究に係る様々な決まり事をきちっと決めていかなければいけません。例えば、こんなことです。

 

うん、難しい。

じゃ、この難しい契約を誰が仕切るんでしょうね。

 

問題なのは誰が仕切るか

企業側であれば法務部です。大企業には契約専門の部署があるくらいです。時には知財部の力も借りたりします。そして、企業では担当者も契約草案の作成に関わります。私も契約条文を一つずつ確認していました。

 

大学であればどうでしょう。先述の本の中にはこう書かれています。

"大学では、TLO(技術移転機関)や産学連携本部といった、企業との連携に特化した組織が企業との連携の構築に当たる。"

なるほど、企業と一緒ですね。ところがこうも書いてあります。

"大学では、TLOや産学連携本部が契約締結の主体であることが問題だ"

・・・?

 

共同研究の実態

企業では、契約に関わる専門部署と実際に担当者も草案作成に関わります。

しかし、大学では共同研究に特化した部署の担当者が代表になり、主たる研究を担う大学教員は草案作成には関わらない。

 

これ、「ほんとかよ」と思われるかもしれませんが、私の経験上もそんな感じだと思います。

 

私が経験してきた共同研究は、

企業側が解決したいニーズがあって、でも企業のリソースだけでは実現できない場合に、

その分野に専門性のある大学教員にコンタクトを取り数百万円/年程度支払って、約束した成果を出してもらう、というケースが多いです。

企業側が受け取る対価は、特定の実験結果だったり、計算結果だったり、考察自体にあったりします。

大学側が受け取る対価は主に研究費です。そして、実際に研究として手を動かすのは、大学の教員であったり学生(ポスドク、博士、時には修士の学生も含む)になります。

(理想的には、ね。)

 

疲弊する大学の例

この本の中では、共同研究を通して、疲弊する大学の実情が書かれています。

 

第一章では、ある地方大学が地方の中小企業に知財権を搾取される様子が書かれます。企業の方は大学教員にこういうそうです。

「大学なんだからただやろ」

 

第二章では、共同研究といえど、その実態は研究受託。企業からの要望に応え続けた大学の若手研究者が疲弊し、大学に出れなくなってしまう。

 

第三章では、大学ポスト取得できない研究者が大学発ベンチャーで働くものの、劣悪な労働環境で貧困から抜け出せない現状を紹介しています。

 

本ですので、多分に脚色が含まれているとは思いますが、こうした現実が大学内に存在するのは、ある程度だと思います。理想的な共同研究というものを実現できているところはそんなに多くないのではないでしょうか。

 

次回は

今回は、「搾取される研究者たち」という本の紹介と共同研究の実態について書きました。こうした実態は、決して本の中の話ではなく、現実にいろんなところで起きていることだと思います。

次回は、今回の内容をもとに、私が企業で経験したことを書いていきます。

 

ちょっと半端ですが、今日はこのあたりで。

 

nekoace