野良研究者の備忘録

経営学と材料加工が専門の企業研究者ナニガシが思うことを語る場

【社会人博士になるまで】自分の博士進学を自分で承認する

管理人は、会社派遣の制度を使い社会人博士課程に進学しました。こうした制度が存在することは入社直後から知っていましたが、進学までには組織のしがらみに起因する多くの壁が存在し、入学まで7年かかりました。というのも、制度利用におけるハードルが高く、過去数年間に渡り、制度利用者が存在していない、という状況だったのです。私はこうした状況で少しでも博士派遣を実現する可能性を高めるために、自分で立ち上げたプロジェクトチームの活動の一環として自分自身の博士進学を組み込む、という手法を取りました。この時の行動記録です。

 

 

管理人のキャリア全体感はこちら

 nekoace.hatenablog.com

 

 

 

はじめに

皆さんは会社の中で ”やりたいけれど難しい” ことを実行するためには何が必要だと考えていますか?

  • ひたすら上司に希望を伝え続けますか
  • やりたいことができる組織に移動しますか
  • それとも、こっそり始めてしまいますか

いずれも正解だと思います。私は会社の派遣制度を使って社会人博士に進学しましたが、社内でやりたいことを通すには時にタフな交渉能力が要求されます。

私が置かれた状況と解決策を具体的に書いていきます。

 

 

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志望者のいない会社派遣制度

管理人は、日系の大手電機メーカーに勤めていました。こういった会社の例にもれず、大学院派遣が制度として存在していました。この制度では、会社の業務に貢献できる研究内容であれば社会人博士に社費で進学できるというものでした。その場合、会社からは3年間の学費と、相談次第ですが、会社の業務として平日に研究を行うことができました。

2015年(社会人4年目)頃でしょうか。私は入社当初からこの制度を知っており、また初めての国際学会発表で刺激を受けた こともあり、本格的に制度利用の検討を始めていました。同時に、周囲にも進学希望を伝えて、反発も受けながら(笑)、外堀を埋めていきました。

運がよかったことにこの時の上司の一人がアカデミア出身の方(大学で助教授を経験されていた方です)で、博士進学に対してとても前向きに協力してくれました。

 

しかしよくよく調べていくとこの制度は研究所内でも特定の部署でしか適用実績が無いことが分かりました。これには、組織の長い歴史によるのですが、もともと基礎研究色の強い部署で主に運用されていた制度で、私がいた応用研究色の強い部署では事例が無かったということです。

このころには応援してくれている上司と一緒になってなんとか進学できる方法がないか検討していました。指導教員と出会ったのはこのころです(こちらで少し言及しています→ 延期はしても中止はしない - 野良研究者の備忘録 )。

 

解決策を模索する日々

さて、進学予定の研究室は決まったものの、大きな二つの問題を解決する必要がありました。

  • 1つ目は、現在の部署に博士進学の制度が無いこと。
  • 2つ目は、制度利用するとして博士進学が会社に利益をもたらすことを説明し承認を得ること。

解決策を模索する日々の始まりです。

これまで社会人博士課程に進んだ社内の方に伝手を頼ってヒアリングしました。また、進学予定の研究室とはできる範囲で研究の構想を練りました。実験に慣れる意味もあり、少しずつ研究を開始し、学会発表の予定も組みました。

 

そのうちに、1つ目の問題は無理くりですが、解決できる道筋が見えてきました。現在の部署に制度が無いのなら、制度がある部署に異動してしまう、ということです。ただ、その場合、博士進学に向けてこれまでにしてきた準備をしっかりと異動先の新しい上司に説明する必要があり、異動先の選定を始めていました。

 

2つ目の問題に関しては、異動先の部署のミッションと、進学予定の研究室の研究領域が重複して、かつ、会社に貢献できるストーリーを構築する必要がありました。

こういった、研究とは関係ないような調整仕事で疲れはて、半ば諦めかけていたころに吉報が舞い込みます。

 

突然道が開けた ”発想の転換"

ある日、突然、私が所属していた部署が部署ごと他の部門に移管されることが決まったのです。しかも移管先は研究部門で、かつ博士派遣の制度利用の実績があったのです!

嘘のような話ですが、これで1つ目の問題は一気に解決しました。問題は二つ目です。

 

私の会社では、特定の技術や製品に関するプロジェクト単位で仕事が進みます。博士進学は特定のプロジェクトに紐づいて実現できるのですが、そのプロジェクトに研究成果を反映することが前提です。

企業研究所あるあるですが、研究成果を業務にどうつなげるか、がすごく難しいのです。だって、数十年後に役立つような研究をしても会社の役に立たないし(基礎物理学とかでしょうか、例えば)、すぐ使えるような研究だと会社の強みにならないからいまいちです。

そして、研究を遂行している方と、その研究を統括している方だと視点が違うので、認識違いのようなミスマッチが起きるのです。

 

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プロジェクト内での研究ビジョンの違い

 

そんなときに、これまたちょうどよいタイミングなのですが、私が所属していたプロジェクト(つまり博士進学の箱にしようとしていたプロジェクト)のプロジェクトリーダーが異動となり、空席となりました。これが二つ目の問題の解決策になりました。

 

つまり、

博士進学を予定している自分がプロジェクトリーダーになって自分で自分に許可を出せば博士進学は簡単に実現できるんじゃないか!

と思ったんです。”発想の転換”です。

 

結局のところ、担当が博士課程に進みたいと思っても、プロジェクトリーダーがOKと言わなければ実現しないわけです。そして、それぞれの熱意に温度差があると、やはりコミュニケーションロスが発生してうまくいかないのです。

だから、自分がプロジェクトリーダーとなってプロジェクトの進捗管理しつつ、一部の担当タスクを担って業務遂行し、かつ、プロジェクト自体の業務遂行能力向上の一環に基礎研究を位置付けて、その研究の領域を自分が博士に進みたい領域と一致させて、担当としての自分を博士課程に送り込めばよい。と思いました。

幸いにして、博士課程の進捗準備やらで、マルチタスクの訓練はひたすら実践していたので、 プロジェクトリーダー&業務担当&博士学生のトリプルワーク もなんとかこなせるだろうと考えました。

段々、ブラック企業感出てきましたね^^。結果的には、後にこれにビジネススクールが入ってくるのでさらに慌ただしくなっていきますが、それはじきに書きます。

(参考までに私の会社は世間的には定時で帰れて福利厚生も揃ったホワイト企業なので、ブラックに働いている人は自主的に自分を追い込んでいる少数の人間に限られますので。)

 

さて、スキームは以下です。

プロジェクトリーダーとしては、数人の部下を持ちました。そして、プロジェクト全体の方向性を会社の方向性と合わせ、それぞれの部下と業務目標を設定します。自分自身は、業務目標として博士課程での研究を個人目標として設定しました。このスキームで関連部署と上司説明を行い了承を得ることができました。当時、6年目でのプロジェクトリーダーとなり、周囲ではおそらく最年少でした。

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プロジェクトリーダーと担当が兼務の場合

 

プロジェクトリーダーとなると、自分のプロジェクトの予算策定の権限が与えられます。私の場合は数名のプロジェクトでしたので、大体500-1000万円程度の予算で、その中の200万円程度を自分向けの予算として確保しました。

博士進学の制度を利用するにあたり、自分自身の学費と大学との共同研究費、さらに各種研究費をこの中から捻出することができました。

 

ついに博士学生になれた

こういった経緯で、紆余曲折ありましたが、無事に会社の制度で社会人博士課程に進学することができました。

学生時代に一度博士進学は諦めましたが、その後社会人博士という制度があることを知り、会社に入ってからも博士課程の制度を狙い続け、学会発表や部署異動といったチャンスに食らいつきなんとか、2018年、社会人7年目の時に社会人博士となりました。すでに30歳を過ぎていました。

 

今日はここまでです。それでは。

nekoace