野良研究者の雑記帳

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【社会人博士の生活⑩】博士をとると年収は上がるか

nekoace は、新卒入社した会社で社会人博士を取得した後に、別のメーカーに転職しました。最初の会社では、博士取得した分野が会社の主流領域と異なる分野であったこともあり、博士取得により評価が上がるということはありませんでした(強いて挙げると周囲の見る目は変わったかもしれませんが)。しかし、転職活動してみると、一部の会社にはめちゃくちゃ評価される、ということが起こりました。今日はこのあたりについてお話しします。

 

社会人博士のまとめ記事はこちら →

【博士の生活総集編】社会人博士で得たものと失ったもの - 野良研究者の備忘録 (hatenablog.com)

 

 

 

はじめに

博士をとっても評価されない、年収に反映されないという話はよく聞きます。また、アカデミアでもポスドク問題はじめ、若手研究者の経済的に厳しい状況はいろんなところで耳にします。しかしながら、一人の人間として、博士号取得が自分の成長に役立ったかと自省すると、役立った、成長できた、と自信をもって言えるのです。

それでは、アカデミアに揉まれて成長した社会人博士が本当に年収というある意味最も単純な評価指標で厚遇されないということは本当でしょうか。私とその周囲というごく限られた環境ではありますが、このあたり考察していきます。

 

博士進学と事業領域との関連

博士を取得しても年収が上がらない、という方の話を聞きますが、そういう場合、会社のフォーカス領域と博士としての専門領域がマッチしていない場合が多いと感じています。

例えば経営戦略の分野で有名なアンゾフのマトリックスで見てみましょう。

会社にはよほどシードのスタートアップを除いて、既存事業が存在します。そして、事業成長を目指して事業の拡大や多角化を目指すわけです。その時に、既存のアセットとして特定技術を使って新しい分野に進出するケース①と、新しい技術を獲得して既存事業と同じ分野に進出するケース②、さらに、非連続的な成長を狙い新技術で新分野に進出するケース③があるでしょう。

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会社にとって、社員の博士号というのはスキルの一つに過ぎないわけですから、ビジネス貢献できるスキルならば、待遇も改善したいと思いますし、貢献が見込めないならば評価しないのも当たり前です。

私が所属していた会社では博士課程への社員派遣の制度があり、周囲に制度利用した方を何人も見知っていますが、彼らのうち、博士の専門性を活かして業務出来ている方で待遇面での不満を訴えている方は見たことがありません。

博士が評価されないと言っている方は、②もしくは③での事業成長を目指す中で、自社の技術力向上の一環として博士進学したものの、その後事業化に失敗し、自身の博士の専門性を活かせないまま別業務に配置替えとなった方がほとんどです。

 

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↑企業内において博士が評価されないケース

 

会社が制度として博士への派遣をした場合に、本当にこのようなことが起こるのか、と思われる方もいるかもしれません。しかし、私のいた会社や日系の他の会社の方にも話を聞きますが、どこもこのような問題は存在します。

新規事業というものはどこの会社でも一種ブームのようなものですし、同時に事業撤退というものも日常茶飯事です。そして、その分野で従事していた社員が、また新たな新規事業分野へ専門性の有無にかかわらず投入されるのです(私はこれはこれで日系企業全体の課題だと感じていますが)。

 

私の場合

私の場合は、博士取得で所属企業で年収アップする、ということはありませんでした。しかしその後の転職によって、年収はざっくり200万円以上は上がりました。

私が博士進学した分野は上記のマトリックスで言うと③の分野で、新しい市場に参入するために不足している技術領域を充足する一環で進学しました。その後、数年で当該分野への進出を中止することを会社が決定し、私も例にもれず、専門性のない新規分野への配置転換となったのです。私の場合、事業撤退しても若干は専門性が活きる分野への転換となったので、博士に近い業務を継続することができましたが、当時は落胆しましたね。

それでは、博士の専門性が活かせることと年収との関連を少し定量的にみていきます。

 

博士と年収の関連

企業には年齢別での年収レンジがあります。いまだに日系の多くの会社は年功序列であり、特に若いうちは年収にはほとんど差がつかない場合もありますが、年齢が上がるにつれ役職に就けるかどうかで、その年収差は開いていく傾向にあるようです。

企業ごとの年収レンジは会社が出す公的な文書には記載されないのですが、口コミサイト、例えばOpenworkなどの情報を参考にすればある程度の予測は可能です。

以下図は私が勤めていた最初の会社と転職した後の会社、日本でトップクラスの年収レンジを誇るある有名自動車メーカーの年代別での給与レンジをまとめたものです。給与レンジの算定はOpenwork等口コミサイトと知り合い経由でのヒアリングから、算定しています。いずれの企業もおおよそN=10程度と思ってください。5歳区切りで年代を区切っていますが、これは調査結果からストライプ補完して区切っています(詳細は割愛)。

 

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この図からわかる通り、いずれの会社も年齢の上昇とともに、平均年収が上昇している様子が分かります。また、いずれの会社でもざっくり±20%のレンジがあるようです。トップ企業を例に出すと、40歳時点で±約20%以上レンジが開いています。平均年収800万円ならば、人により600~1000万円程度差があるということです。

 

私の場合2

の、年収と上記レンジを公開します。私は30代前半で転職しましたが、結局1社目では平均年収程度の年収しかもらえませんでした。この会社では、部署評価と個人評価でおおよそ評価が決まります。そしてこの評価は基本給、賞与いずれにも反映されます。私の場合、周囲と比べるとそこそこ評価されていたとは思うのですが、部署評価が芳しくなく、総じてはおおよそ平均程度となっていたようです。

一方、二社目では、私の博士での専門性とマッチする業務への転職となりましたので、非常に評価されました。当該分野での博士課程取得者がおそらく日本中探しても50名程度しかいないかというニッチな領域(同年代だと数人でしょう)にフィットしました。そのため2社目の会社が出せるギリギリまで評価してもらったようです。レンジ比較しても上限ギリギリまで頂けることになりました。

 

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↑管理人の場合の年収レンジ実績

 

考察:博士をとると年収は上がるか

私の場合、転職により、博士の実績が評価され、年収としても大きく上げることができました。この要因は、博士で取得した専門性をもとに、転職活動を通して評価してもらえる会社を探索し、マッチするところが見つかったという点に尽きると考えています。

上記前半でアンゾフのマトリックスで書きましたが、これは自社外まで拡張すると以下のように書けます。技術軸、市場軸の書き方は同じですが、中央に既存事業を置いたときに、外側には別の会社の事業領域が存在します。

 

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私の場合は、1社目で、新規事業の一環として博士取得したものの、事業撤退により、自社の事業領域から自身の専門性が浮いてしまい、マッチしなくなっていました。そのため、自社の中での評価もさほど高いものではありませんでした。そこで、より専門領域がマッチする2社目の会社に転職したところ、博士の経験を非常に高く評価してもらうことができ、会社として出せる限界まで出してもうことができ、結果として非常に高年収を頂くことができました。

 

まとめ

それでは、博士号が年収にどの程度寄与すると考えるのが妥当でしょうか。博士はある意味では、特定領域における目に見えるスキルです。一つの会社の中にいる限りは、スキルを可視化する必要性がそれほどはありません。しかし、目に見えるスキルがあれば、転職活動において、よりフィットする(今の場合は高評価を受ける)会社を探索することが可能になるのではないでしょうか。

私の周囲の他の博士号取得者も、転職により年収を上げていっているかたは多くいます。そしてそうした方はいずれも博士の専門性を活かして活躍しています。こうした事例から、博士取得により、企業における年収レンジの中で高評価を得ることは十分に可能であると考えます。

半ば無理やり金額換算すると、例えば、20代であれば数十万円程度、30代前半であれば100万円以上年収を押し上げる効果があるのではないかと考えますがいかがでしょうか。

 

皆さんがキャリアを考える助けになれば幸いです。

ぜひ、社会人博士をうまく使って、キャリアアップを実現してください!

 

nekoace

 

まとめ記事  → 【博士の生活総集編】社会人博士で得たものと失ったもの - 野良研究者の備忘録

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おまけ:博士/MOTを同時修了したときの制度の解説を書いています。有料記事ですがよろしければどうぞ。 

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